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解散権の濫用と裁判所のスルーパス

 

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最高裁判所

解散!」という記事で触れたとおり、内閣には衆議院の解散権があります。もっとも、解散権行使は、憲法69条に規定されている、衆議院で内閣不信任決議が可決されたり、信任決議が否決されたりした場合に限定されるのか、内閣のイニシアチブによる解散権行使を認めるのかで諸説あるのですが、少なくとも現行憲法下では、憲法69条によらない、内閣のイニシアチブによる解散が繰り返し行われてきました。

憲法69条によらない最初の解散は、第3次吉田茂内閣による「抜き打ち解散」と言われるもので、1952(昭和27)年8月28日に強行されたものでした。

この「抜き打ち解散」は、簡単に言うと、前年に公職追放を解除されて政界に復帰した鳩山一郎(後の総理)を支持するグループ鳩山派に対抗して、鳩山派の準備が整わないうちに総選挙を行って打撃を与えようとしたものでした。
どこかで聞いたようなやり方ですが、衆議院の解散は、多くの場合、国民の信を問う必要よりも、権力争いの道具として用いられてきたのが実情のようです。

さあ、この解散は果たして許されるのか。当時は現憲法が施行されてからわずか5年のこと。憲法に明記されている衆議院の解散は69条しかないではないか。この解散は憲法違反ではないのか。

実際、遡ること4年前に衆議院の解散が行われた時には、69条以外の解散が認められるのかどうか自体に与野党間で争いがあったため、与野党話合いの上で一旦内閣不信任決議を可決させて、その後に衆議院を解散するという手順を踏んでいました。「馴れ合い解散」と言われるゆえんです。

たとえ馴れ合いと言われようと、憲法に明記された手順を踏むのは当然、これを踏まない解散を認めるわけにはいかない、この解散は憲法違反で無効だ、という主張がなされるのは自然なことでした。
この主張を裁判所にまで持ち込んだのが、解散で衆議院議員の職を失った苫米地(とまべち)義三氏でした。

この裁判は、後に「苫米地事件」として憲法の教科書にも書かれることになるのですが、結論から言えば、1960(昭和35)年、最高裁判所大法廷は、統治行為論によって司法判断を回避し、「本件解散を憲法上無効なものとすることはできない」としました。「衆議院の解散は、極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為であって、かくのごとき行為について、その法律上の有効無効を審査することは司法裁判所の権限の外にあ」る、としたのです。

統治行為論と言うと、砂川事件が有名です。
しかし、実は砂川事件大法廷判決では、日米安保条約に基づく米軍の駐留が高度の政治性を有するものとしつつ、「一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のもの」としています。つまり、「一見極めて明白に違憲無効」であれば、たとえ高度の政治性がある事項でも、裁判所がこれを違憲無効と判断してもよい、という例外の余地を残しています。

これに対して、苫米地事件では、留保のつかない純粋な統治行為論です。
要するに、衆議院の解散については、そもそも裁判所が有効無効を言う立場にないというわけです。苫米地事件で直接問題になったのは、憲法69条以外での解散ができるかどうかでしたが、解散権の濫用に当たるのか否かの判断を求めても結論は同じでしょう。

統治行為論の当否や憲法判断に消極的な裁判所のあり方については、いろいろ言いたいこともなくはないですが、裁判所が身を引いたのは、高度に政治的な問題は「最終的には国民の政治判断に委ねられている」という点に尽きます。
裁判所にはできないけれど、国民なら選挙を通じてNOを突き付けることができる。それも、解散権の濫用が違憲無効だという判断だけでなく、濫用とも思える解散権行使をするような内閣と、総理大臣を指名した国会(衆議院)にNOを突き付けることができるというわけです。

最高裁判所のスルーパスに、国民がどう反応するのか。
国民までもがスルー(棄権)したら、もうボールは国民には回ってこないかも知れませんよ。だって、フリーキックならぬフリーハンドを与えてしまうことになるかも知れないのですから。

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