参政権とお金の問題
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様々な理由で自己破産をしなければならなくなってしまった方から相談を受ける際に、
選挙権もなくなるんですよね
と尋ねられることがあります。どうでしょうか。
答えは、もう少しあとに書きます。
我が国では1925年に普通選挙法が制定されました。「選挙に行く(19)25歳男子」なんていう語呂合わせで覚えている方もいるのではないでしょうか。女性の選挙権は戦後を待たなければいけませんが、とにもかくにも25歳以上の男性による普通選挙が行われることになったのです。
しかし、この「普通」って何でしょうか。
ここに言う「普通」選挙とは、それまで一定額以上の税金を納めていることが選挙権の条件になっていたのを撤廃したということなのです。つまり、経済的な理由で選挙権が左右されないのが、普通選挙なのです。
さて、この普通選挙は戦後GHQ指導の下で女性にも認められることになりました。「婦人参政権」と言われます。時々誤解されている方もいらっしゃいますが、婦人参政権が認められたのは1945年12月のことですから、日本国憲法より先に認められたんです。
翌1946年11月に公布された日本国憲法15条2項には、次の規定が盛り込まれました。
公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。 (日本国憲法15条2項)
普通選挙は憲法上保障されているのです。
ですから、冒頭の質問の答えは、「No」です。経済的に困窮したからといって、選挙権を失うことはありません。
ところで、今は第24回参議院議員通常選挙のまっただ中ですが、ちょっと気になっていることがあります。
とある候補者が、議員報酬をすべて被災地などに寄附して、実質的に議員報酬ゼロで働くと宣言しているのです。給料にあたる議員報酬(国会議員の場合は「歳費」といいます)がなくても、政治活動に必要な費用や公設秘書の給与が別途支給されるので問題ないというのですが、どうなのでしょうか。
これは地方議会の話ですが、ある意識調査で、地方議員の報酬をゼロにしたら議員の質が上がると思うかという質問に対し、約半数の人が「上がると思う」と答えたそうです。生活を犠牲にしてでも地元のために働きたいという「意識の高い」人が集まるのではないかという考えなのでしょう。
けれど、議員報酬ゼロにしたら、元々経済的に恵まれている資産家とか、副業が順調で議員活動に専念しても所得が見込める人でもなければ、議員になれません。もちろん、そういう人がいても構わないのですが、経済的背景の違いというものは、政治家に限らず、人の考えや行動に影響を及ぼすものです。議員報酬をすべて被災地などに寄附するのは結構ですが、そうする余裕がある人とない人で、実質的に経済的背景が有権者の判断材料になり、当落に有利不利があるとすれば、考えものだなあと思います。
憲法44条には、次の規定があります。
両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならない。 (日本国憲法44条)
金にまつわる政治家の不祥事が続く中では、「議員報酬いらないとは見上げたもんだ」と言いたくなる気持ちも分からなくはありませんが、そういう風潮が強まると、結局、政治は一部の人たちのものになってしまいかねないのが心配なのです。
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