天皇機関説事件の行く末
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義務教育の社会科の教科書にも書いてあると思うのですが、「天皇機関説事件」をご存知でしょうか。
念のため、ウィキペディアの該当記事へのリンクを貼っておきます。
ごく簡単に言うと、こんなことです。
時は1935(昭和10)年2月18日、まだ明治憲法下での貴族院本会議で、元陸軍中将だった菊池武夫議員が、東京帝国大学名誉教授の美濃部達吉議員の「天皇機関説」を「反逆だ」として批判したのがきっかけとなり、軍部や右翼がこぞって「天皇機関説」攻撃をはじめ、美濃部教授は不敬罪の疑いによる取調べを受け、ついに貴族院議員を辞職するという事態にまで発展したという事件です。
しかし実のところ、「天皇機関説事件」として知られているものの、「天皇機関説」のことは案外知られていません。
これもウィキペディアで調べてみましょうか。
国家を法人、要するに会社のような組織になぞらえて、天皇はその法人たる国家の機関なのだとする憲法学説です。
この天皇機関説は、何も1935年になって美濃部教授が突然突飛な学説を唱えはじめたという類のものではなく、もともとは美濃部教授の師匠である一木喜徳郎東京帝大教授が唱えたもので、後に美濃部教授によって理論的に発展させられ、1912(大正元)年の「憲法講話」に発表されたとのことで、憲法学上の通説となっていたのだそうです。
憲法学上の通説どころか、政治家も官僚も、当の大正天皇、昭和天皇でさえも、この天皇機関説を前提に国家というものを捉えていたというのです。
そこに、1935年の菊地演説が横槍を入れてきた。
天皇の神格性を否定するけしからん学説だと。
ついでに、いつの時代にも悪のりする連中がいて、
「天皇陛下を機関車か機関銃にたとえるとは何ごとか」
なんて。そんなこと誰も言っていないのに。
大日本帝国憲法3条にはこう書いてありました。
天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス
聞いたことありますよね。神聖不可侵というやつです。
天皇は現人神(あらひとがみ)で神聖不可侵であり、権力の淵源は天皇にこそある。だから、天皇が国家機関の一部なんて考え方はとんでもない間違いだ、という具合になるわけです。
ところが、この「神聖不可侵」という規定は、実は天皇の神格性を規定したものでも、聖なる存在として崇めたものでもありません。
元は、フランス革命後の王政期に、実質的な権力は持たない象徴としての国王が、国の裁判権に服さないことを定めた規定があり、これがベルギー憲法やプロイセン憲法に伝わって、これに強い影響を受けた明治憲法に書き込まれたという経緯なのだそうです。
憲法を学ぼうともせずに、字面だけ眺めて、天皇は神だ、不可侵だ、これに逆らう学者・学説は学匪だと喧伝し、都合の悪い人間は国家の敵だとあげつらう。
きっかけとなった菊地演説からの10年間に、この国が見たものがどんなものであったのかは言うまでもありません。
そして、どこか今のこの国の状況にシンクロしているように思えてしかたありません。
岐路はすぐそこにあるのかも知れません。
それを見失わない感性を研ぎ澄ませることが大切です。
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