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緊急事態と憲法

 

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ドラえもんのひみつ道具の中に「どくさいスイッチ」というのがあるのをご存知でしょうか。テレビ朝日の公式サイトでも紹介されていますが、「このスイッチを押すだけで、ジャマな人物をカンタンに消すことができる。」という恐ろしい代物です。
子供の頃にマンガで読んで以来、「独裁」という言葉から真っ先に連想するのは、ナチス・ドイツの総統でも、チャップリンの映画でもなく、この「どくさいスイッチ」でした。

今、憲法の緊急事態条項が話題になっています。
改憲を唱える勢力から、憲法に緊急事態条項がないのは欠陥だという主張が投げかけられ、国の存立が脅かされるような事態が生じた時に、一時的に権力を集中させて秩序の回復を図ることは、むしろ政府の義務として必要不可欠なのだとされています。しかも、緊急事態条項であれば憲法改正についての国民の理解を得やすい、という思惑もあるようです。そのために、「改憲の突破口」だとか、「お試し改憲」などという言われ方さえあるくらいです。

今なお避難生活を強いられている熊本地震について、「憲法に緊急事態条項があれば、国がもっと適切な対応ができたはず」ということも言われています。しかし、我が国は過去に繰り返し自然災害に遭遇してきましたから、そのたびに制度や法令を整備し、自治体や関係各省庁の連携、企業の自主的な対策、防災意識の涵養、ボランティアのネットワーク、災害予知研究等々、経験に学び知恵を尽くして対策に当たり、成果を上げてきました。もちろん、そうした人間の努力を易々と凌駕してしまうのが自然の力ですが、こうした各方面の知恵と工夫がなければ、災害はもっと拡大したことでしょう。

熊本地震の後、災害時に緊急事態条項が必要だったかという調査が、東日本大震災の被災自治体を対象に行われたそうです。回答のあった37自治体のうち「緊急事態条項が必要だった」と回答したのは1つの自治体だけで、その内容も、個人の財産権が発災初動期・復旧復興期に大きなハードルとなっているというもので、同じ問題を抱える他の自治体では、特例法によって対応できたという回答をしたのだそうです。

阪神淡路大震災や新潟中越地震、東日本大震災などの被災地を含む各地の弁護士会も、緊急事態条項の創設には反対の声明を上げています。大規模な自然災害への対策に緊急事態条項が必要だとするのは、これまでに整備され、見直しが繰り返されてきた、各種の災害法制への無理解によるものだとされています。

現在の政権与党である自由民主党の改憲草案に盛り込まれている緊急事態条項は、戦争や大規模な自然災害時などに権力を内閣に集中させ、国民の権利を制限してでも国家の存立や秩序の回復を図ろうとするものですが、要するに「憲法停止スイッチ」を総理大臣に与えるものです。

「憲法なんか護っていたら国が守れなくなる」
「憲法より守りたいものがある」

なんていうと、漫画か何かのセリフみたいでカッコよく聞こえますが、どうも「どくさいスイッチ」の憲法版に見えてしかたありません。

先人が多くの犠牲と経験の上に築いてきた災害法制を学ぼうとせずに、大元の「憲法停止スイッチ」さえあれば何とでもなる、と思っているとすれば大間違いです。よほど、災害法制を学ぶのが嫌いなのか、苦手なのか、コンプレックスでもあるのかと勘繰ってしまいたくもなります。

この原稿を書いていて思い出したことがひとつあります。
ナチスの高官だったヘルマン・ゲーリングが、ニュルンベルク裁判に際してギルバート心理分析官に語ったとされる話です。

もちろん、普通の人間は戦争を望まない。(中略)しかし最終的には、政策を決めるのは国の指導者であって、民主主義であれファシスト独裁であれ議会であれ共産主義独裁であれ、国民を戦争に参加させるのは、つねに簡単なことだ。(中略)とても単純だ。国民には攻撃されつつあると言い、平和主義者を愛国心に欠けていると非難し、国を危険にさらしていると主張する以外には、何もする必要がない。この方法はどんな国でも有効だ。

「ヘルマン・ゲーリング」Wikiquoteより
最終更新日時 2015年6月8日 (月) 15:36

「緊急事態」は作り出せてしまうのです。

「どくさいスイッチ」は、実は独裁者に反省を促すための道具で、ドラえもんはのび太君を懲らしめるために、この物騒な道具を渡したのです。しかし、そのドラえもんは、苦手とするネズミを退治するために核爆弾まで持ち出したこともありました。万能の力を持つことは怖いことです。緊急事態条項もしかり。

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