権力を分散せよ
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デカルトは言いました。
困難は分割せよ
どうにも解決のつかない問題に直面したとき、その問題をよく分析してみれば、きっとその中に解決できる問題や無視してもかまわない問題が見つかるはず。
扱うには大きすぎる問題も、小さな問題の複合体なのかも知れません。
さて、今回は国家権力のお話です。
「三権分立」(さんけんぶんりつ/さんけんぶんりゅう)という言葉は、みなさんご存知と思います。
問 「三権分立」の「三権」とは何か。それぞれの属する機関名とともに答えよ。
答 立法権(国会)、行政権(内閣)、司法権(裁判所)
なんていうテストを受けたこともあるのではないでしょうか。
ここに言う「三権」の「権」は国家権力のことで、法治国家における法の視点で、
- 法を制定する権限(立法権)
- 法に基づいて政治を行う権限(行政権)
- 法を適用して執行する権限(司法権)
という3つに分類し、それぞれの国家機関に担当させる仕組みです。
日本国憲法もこの三権分立の仕組みを取り入れています。
第41条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
第65条 行政権は、内閣に属する。
第76条1項 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
「国会は最高!」という記事にも書きましたが、この三権は、分割不可能な国家権力を分担しているだけで、互いに上下関係はありません。むしろ、互いに抑制と均衡(チェック・アンド・バランス)を保つ、対等な関係にあります。
国会が内閣総理大臣を指名し、内閣が最高裁判所長官を指名し、他の最高裁判事を任命し、行政のための予算は国会で議決され、内閣総理大臣は衆議院の解散権を持ち、衆議院は内閣不信任を決議することができ、裁判所は違憲立法審査権や行政裁判を行う権限を持ち、国会は裁判官の弾劾裁判を行う権限を持つ。これだけではありませんが、国会、内閣、裁判所は、互いに拮抗しあう権限を持ち、全体として国家権力を担っているのです。
しかしなぜ、国家権力を分散する仕組みが生まれたのでしょうか。
簡単に言えば、権力の暴走を防ぐためです。
もちろん、権力を集中させると、内部で混乱を招きやすくなるので、役割分担のために権力を分散する方が効率的という面もあるでしょう。
しかし、何より権力を集中させることは、暴走したときに歯止めが利かないという危険を伴います。この権力の暴走は、絶対君主制であっても、民主制であっても起こりえます。危険は人民に及びますから、あらかじめ安全装置を組み込んでおくのが安心です。
権力分立というと、イギリスの政治学者ジョン・ロックの「市民政府二論」や、フランスの啓蒙思想家モンテスキューの「法の精神」を思い出す方もいらっしゃるかも知れません。
たしかに、こうした17~18世紀の政治思想・法思想は現代の権力分立制に直接つながるものですが、実は権力分立の源流は、古代ギリシャにまで遡ることができるとする指摘もあります。
三権分立という仕組みは、いわば人類の叡智なのです。
内閣総理大臣が「私は立法府の長」なんて言ってしまうのは、言い間違いにしても、浅薄に過ぎると言わざるを得ないわけです。
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