「統治機構」という言葉の陶酔感
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「統治機構」という言葉にどんな印象を持ちますか?
初めてこの言葉に接したのは、大学の法学部の憲法の授業でのことだったように思います。「日本国憲法のしくみ」でも触れたように、憲法は「人権」と「統治機構」について定めているんだと教わったのです。
その時のことを振り返ってみると、何となく「統治機構」っていう言い方に嫌な印象を持ったのを思い出します。というか、今でも好きになれない言い方です。
日本国憲法に定められた「統治機構」というのは、簡単に言うと国の仕組みのことで、天皇(第1章)、国会(第4章)、内閣(第5章)、司法(第6章)、財政(第7章)、地方自治(第8章)というあたりが統治機構に関する規定ということになります。
講学上の用語なので、好きも嫌いもないのですが、でもやっぱり「統治」って言葉が引っかかります。統治には「する」「される」がつきもので、統治する側が国家権力、統治される側が国民、という図が思い浮かびます。でも、国家権力は国民に由来するはずで、国家権力を行使するのは「統治」ではなく、「信託」のはずです。憲法前文にもそう書いてあります。
そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。(日本国憲法前文第1段より)
この憲法前文にならうならば、「『統治』機構」ではなくて、「『国政』機構」の方がいいんじゃないかとひそかに思っています。もっとも、「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。」と定められていますから(4条)、これも含めると、「国事・国政機構」でしょうか。
でも、権力行使をする側、あるいは行使する立場を狙っている側に立つと、きっと「統治」という響きにはうっとりするような魔力があるんでしょうね。「統治機構」という言葉はなくならないでしょう。
数年前までは「統治機構」なんて言葉は、法学部の教室でしか聞こえてこない言葉だと思っていましたが、ここのところ維新の党界隈からよく聞こえるようになりました。党の綱領にも「統治機構改革」と書いてあります。だからといって維新の党が統治者たらんとしているわけではないと思いますが、「統治機構」って発言している時の彼らの顔が、どこか「ドヤ顔」に見えるのは気のせいなのでしょうか。
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