答弁しないとの閣議決定
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先日金融庁の金融審議会市場ワーキンググループが作成した報告書で、夫婦の老後資金として公的年金以外に2000万円が必要とされていたことが大きな話題となっています。
公的年金に対する期待は、ずっと以前から地に墜ちていたというのが実情だと思いますが、試算とはいえ、実際にこのような数字が示されたことは、政府としても重要課題として対策を迫られることになるというのが自然な流れのはずです。
ところが、この問題が話題となるや、政府は、この報告書を正式なものとしては受け取らない、つまり、なかったことにする、という驚くべき対応をすることにしました。驚くべきというより、唖然としました。
でも冷静に考えてみると、年金問題は厚生労働省の問題であって、金融庁のワーキンググループからこんな報告書が出るというのは、はじめから年金問題に正面から対策を取ろうとするものではないことに気付くべきでした。
要するに、公的年金では老後資金が不足することをネタにして、投資を促そうというものだったのです。
公的年金のうち厚生年金と国民年金の積立金は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)によって運用されているのですが、規模が大きく株価への影響力もあるため、株高を生み出すための官製相場の資金源にされているのではないかとの指摘さえあるところです。今回の報告書には、そのような市場に、年金不安の危機感に煽られたタンス預金をあぶり出そうとする意図を感じるのは当然とも言えるでしょう。
そうなると、野党も黙ってみているわけにはいきません。
今回の報告書によって改めて注目されることになった公的年金制度の問題、年金資金の運用、金融庁の意図その他、国会において審議を行うべき事項はたくさんあります。もちろん、すべての国民の生活に関する問題でもありますから、これは野党だけが関心を持つことではなく、与党としてもないがしろにはできない問題です。
ところが、今日、政府は、今回の報告書に関する野党議員の質問主意書に対し、「正式な報告書」として受け取っていないことを理由に回答を拒否する答弁書を閣議決定したというのです。曰く、「世間に著しい誤解や不安を与え、政府の政策スタンスとも異なる」ので、「当該報告書を前提にしたお尋ねについてお答えすることは差し控えたい」ということなのだそうですが、だからといって公的年金では老後資金に不足を来すという問題が解消したわけでもありません。
日本国憲法63条は、次のように定めています。
〔国務大臣の出席〕
第六十三条 内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。
内閣は、国会の信任において成立し、行政を委ねられているわけですから、国会から「どうなっているのか」と聞かれれば、きちんと説明する義務があるのです。
それを「もうあれはなかったことになっているのだから、答えない」というのは、内閣=政府が国会のたづなを振り切って暴走しようとしている、それを堂々と宣言したに等しいでしょう。
まさか、こんな憲法違反の態度を見せられるとは思ってもみませんでした。
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