国歌斉唱と不起立ーアメリカの場合
この記事は約 2 分で読めます。
先日、NFLフォーティーナイナーズ(49ers)のクォーターバック、コリン・キャパニック選手が、試合前の国歌斉唱の際に起立することを拒否したというニュースがありました。彼は、米国内における人種差別と警察官による有色人種への暴力行為に対する抗議として起立拒否という態度を示したのです。
「黒人や有色人種を虐げる国の旗に誇りを示すつもりはない」
彼の行動は確固たる信念に基づくものでした。
こうした抗議姿勢に対しては、賛否両論が巻き起こりました。
彼の行動に反対する人たちの声の中には、
「米国のために兵役について命を捧げている人々への侮辱だ」
として、彼を選手として起用すべきではないとか、NFLから追放すべきだという意見まであったそうです。
ところが、キャパニック選手の行動に賛意を示した人々も多くありました。ほかならぬ米国軍の現役の兵士や兵役経験者からも、彼の行動を支持するメッセージが寄せられたのです。
「自由のために戦っているんだ。国歌のためじゃない。」
アメリカ合衆国憲法の修正第1条はこう定めています。
合衆国議会は、国教を樹立、または宗教上の行為を自由に行なうことを禁止する法律、言論または報道の自由を制限する法律、ならびに、市民が平穏に集会しまた苦情の処理を求めて政府に対し請願する権利を侵害する法律を制定してはならない。
日本国憲法で言えば、思想良心の自由(19条)、信教の自由(20条)、表現の自由(21条)、請願権(16条)をひとまとめにした条文です。
国旗や国歌に最大限の敬意を示せという愛国主義は、行動や考えや感情(感動)を一致共有することに価値を見出す傾向があります。和とか団結とか結束とか、そうしたものを乱す振る舞いや考えは認めがたい。それはもう美学のようなものです。
しかし、個人としての人にこそ価値を見出し、国家とは個人の自由や権利を守るために存在するという近代思想とそれに基づく立憲国家にあっては、愛国主義は、個人の内心の自由や表現の自由をおびやかしかねない、要注意マーク付きの警戒すべき対象です。皆が同じ方向を向いて熱狂する時のエネルギーは凄まじいものがありますが(それはNFLのスタジアムに集まる観衆が期待する興奮と同種のものです)、その同調圧力のエネルギーは個人の自由などあっさりと踏みつぶしてしまいかねません。暴走する愛国心は、国家の基本原理まで吹き飛ばしてしまう皮肉な結果を招きます。
キャパニック選手の孤独な意思表明を支持した兵士のメッセージは、ヴォルテールの言葉を連想させます。
「私はあなたの意見には反対だ。だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る。」
改めて噛みしめたい言葉です。
関連記事
-
表現の自由はなぜ大切なのか
憲法21条にはこのように書いてあります。 第21条 集会、結社及び言論、出版その …
-
憲法が考える家族のかたち
小坂明子さんの「あなた」という歌、あまりにも有名なので、みなさんもご存知と思いま …
-
権利と義務と
「権利には義務が伴う」 といういい方を聞いたことがありますか。 権利ばっかり主張 …
-
将来の夢は何でしたか
もうすぐ七夕ですね。 みなさんも七夕飾りの短冊に願い事を書いたことがあると思いま …
-
刑法は自由を守る
刑法には自由を保障する機能があります。 そう聞くと、 犯罪者を取り締まることで、 …
-
天皇機関説事件の行く末
義務教育の社会科の教科書にも書いてあると思うのですが、「天皇機関説事件」をご存知 …
-
こころは自由だ
「人間は考える葦である」 フランスの哲学者パスカルの言葉として知られています。 …
-
好きなところに行けるということ
「この世界の片隅に」というアニメーション映画が話題になりました。戦時下の広島・ …
-
1票の格差と民主主義
第24回参議院議員通常選挙が終わったと思ったら、東京では都知事選挙が始まりました …
-
マスコミを懲らしめるって、誰が?
このブログではまだ表現の自由とか報道の自由について取り上げていませんが、先ごろこ …
- PREV
- 司法が独立している意味
- NEXT
- 緊急事態条項があったなら