マスコミを懲らしめるって、誰が?
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このブログではまだ表現の自由とか報道の自由について取り上げていませんが、先ごろこれらに関係する重大なニュースが飛び込んできたので、やはり一言コメントしておいた方がよいと思います。
ニュースというのは、ご存じのとおり、先週6月25日に自由民主党本部で開かれた勉強会「文化芸術懇話会」でのことです。
報道されている内容によると、この勉強会に参加していた自民党の衆議院議員が、「マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのが一番。」として、経団連などに働きかけして、マスコミに広告掲載をしないようにしてほしいと発言したり、「沖縄のメディアは左翼勢力に乗っ取られている」と発言したりしていたようです。この勉強会に講師として招かれていた作家の百田尚樹氏も、「沖縄の二つの新聞社は絶対つぶさなあかん。」とか、いろいろ発言したようですが、何と言っても問題なのはやはり衆議院議員の発言です。
たしかに、ここのところ政府・与党は報道機関にかなりつつかれていて、政権運営の足かせになっていると感じているのでしょう。
憲法調査会での憲法学者3人による集団的自衛権「違憲」発言が大きく取り上げられたり、年金機構の情報漏洩問題も、マスコミが報じるまで隠されていたことでしたし、苛立つ気持ちも分からなくはありません。報道機関が政府の味方になってくれて、どんどん宣伝をしてくれたなら、国会答弁でしどろもどろになってまで安保法制の説明をしなくてもすむかも知れませんし、世論形成もしやすくなるかも知れません。
「それを何だ、マスコミは。政府の揚げ足を取るようなまねしやがって。お前らの報道のせいで、支持率だって下がる一方じゃあないか。政府のやることをじゃまするっていうことは、日本という国に歯向かうってことだぞ。利敵行為だぞ。」
というくらい脳内で怒りがエスカレートすることだってあるかも知れません。「知れません」というか、そういう発想があるからこそ、上記のような発言も飛び出すのでしょう。
そのうち改めて書く予定ですが、憲法21条に定められた「表現の自由」は、民主主義国家において特別に重要な意味を持っています。表現の自由なしには、国民は自分たちのくらしを方向付ける政治に参加することができません。意見を表明すること、人の意見を聞くこと、その正否や当否を判断するために情報を集めること(知る権利)。これらがなくては民主政治=自分たちのことを自分たちで決めていく政治は実現できません。そして、これらはすべて「表現の自由」の一部として保障されていると考えられています。情報が複雑多岐になっている現代社会において「報道の自由」も、国民の知る権利に資するものとして、「表現の自由」に欠かせないものになっています。
ちょっと待て、それなら国会議員にだって「表現の自由」があるのだから、「報道機関を懲らしめるべきだ」という意見表明をしたっていいではないか、という声も聞こえてきそうです。
しかし、ここで思い出していただきたいのは、憲法は何をするための法なのか、ということです。「憲法というもの」という記事にも書きましたが、憲法は国の仕組みの側、すなわち天皇、内閣、国会、裁判所その他の公務員をしばるためのルールです。憲法にしばられているはずの国会議員が民主政治に不可欠な「表現の自由」の一部を構成する報道の自由を制限しようというわけですから、これはもう国会議員個人の表現の自由を超えて、民主政治を否定するものと言えます。
そもそも、政府や与党の方針に疑問を呈したり、反対の立場を取ったりする人や組織を敵視し、排除しようとする発想がすでに民主政治とは異なるものです。自分の考えを受け入れてもらえない。理解してもらえない。反対される。そんな状況に苛立つのはしかたありませんが、民主主義とはそういうもの。多数決が民主主義ではありませんよ。
むしろ周囲の人が同じ意見でまとまろうとしている時こそ、警戒すべきです。
「誰も止めてくれないの?」って。
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